2. 流体の根幹をなす重要な性質:流れに逆らう「粘性」と、縮む空気「圧縮性」

◆CAEエンジニア(初心者向け)

 流体力学の計算を成り立たせる上で、流体が持つ性質のなかでもっとも重要な役割を果たすのが「粘性(ねんせい)」と「圧縮性」です。

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 「粘性」とは、流体の内部に働く摩擦力のようなもので、流速の違い(速度勾配)をなくし、運動をできるだけ均一にしようとする性質を指します。水あめやハチミツがドロドロしているのは粘性が高いためですが、一見サラサラに見える水や空気にさえ、確かな粘性が存在しています。この粘性がもっとも顕著に現れるのが、物体と流体が接する「壁面」です。

 例えば、細長い円筒の管の中に水を流す状況を想像してください。管の中心付近の水は勢いよく流れていますが、実は「管の内側の壁面に直接触れている水分子の流速は完全にゼロ」になっています。どんなに流速が速くても、固体表面に接した流体は摩擦によってピタリと止まっているのです(これを滑りなし条件と呼びます)。速度ゼロの壁面から、中心部の速い流れに向かって急激に速度が変化する薄い層が存在し、これを「境界層」と呼びます。この境界層内では流体を引っ張り合う強い摩擦力(せん断応力)が発生しており、これが管の入り口から出口へ流れる際の「圧力損失(エネルギーのロス)」の根本的な原因となります。

 熱流体解析ソフトでは、この現象を正確に捉えるために壁面付近に細かなメッシュを配置するのが定石です。ただ、計算負荷を減らすために、あえて「摩擦が一切ない理想的な壁(スリップ壁・対称境界)」を設定することも可能です。これは、解析モデルを半分に割って計算するハーフモデルの対称面や、波立たない水面を簡易的にモデル化する際によく使われる強力なテクニックです。

 もうひとつの重要な性質が「圧縮性」です。これは、周囲から圧力がかかった際に体積がギュッと縮む性質を指します。空気を先端を塞いだ注射器に入れてピストンを押すと、ある程度までは押し込むことができます。これは空気が大きな圧縮性を持っている証拠です。対して、水を入れた注射器はいくら力を込めてもほとんど動きません(非圧縮性)。

 空気は水の約1万倍も圧縮しやすい性質を持ちますが、流体力学において「常に圧縮を考慮しなければならないか」というとそうではありません。実は、流速が音速の約30%(マッハ0.3、時速換算で約360km/h)を超えない限り、空気であっても「縮まない(非圧縮性流体)」とみなして計算しても誤差はほとんど生じません。自動車の走行風や電子機器の冷却ファン程度の速度であれば、体積変化は無視できるのです。そのため、多くのCFDソフトでは計算を高速化・安定化させるため、デフォルト設定では圧縮性を無視する(非圧縮)設定になっており、高速鉄道や航空機、エンジンの内部などを解析する際にのみ、オプションで圧縮性をオンにするというアプローチが取られています。

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