CAE(コンピュータ支援技術)を用いた熱流体解析において、解析者の腕の見せ所であり、最も結果を左右するプロセスが「モデル化」です。ここで言うモデル化とは、単に3D CADで形状を作成することではなく、「複雑な自然現象の中から、目的とする結果に影響を与える重要な要因だけを抽出し、影響の少ない要因を大胆に切り捨てる(理想化・簡略化する)」という物理的なアプローチを指します。
例えば、パチンコ玉をビルの屋上から落とす現象を計算する際、空気抵抗の影響は重力に比べて微々たるものなので「空気抵抗を無視する」のは適切なモデル化です。しかし、薄い紙を落とす現象で空気抵抗を無視すれば、ヒラヒラと舞う現実とは全く違う結果になります。現象を支配している主役(支配的な物理要因)は何かを見極めることがモデル化の第一歩です。
製造業の現場で非常によく発生する失敗が、「CAD設計者が作った詳細な3Dモデルを、そのまま流体解析ソフトにインポートしてしまう」というケースです。実際の製品データには、製造上の都合で設けられた1mm以下の小さなフィレット(角の丸み)、面取り、小さなネジ穴、さらにはメーカーのロゴの刻印まで含まれています。これらをそのまま解析にかけるとどうなるでしょうか。ソフトウェアはそれらの微細な形状を表現しようと、何百万、何千万という無数の細かなメッシュを自動生成してしまいます。結果として、計算に必要なメモリが不足してエラーで止まったり、数週間待っても計算が終わらないといった事態に陥ります。
流体のマクロな流れや冷却性能を知る上で、1mmのネジ穴やロゴの凹凸は全く影響を及ぼしません。こうした解析に不要な微細形状を取り除く作業を「ディフィーチャリング(形状の簡略化)」と呼びます。
さらに高度なモデル化の手法として、複雑な構造そのものを「数式に置き換える」という方法もあります。例えば、無数の細かいフィンを持つ車のラジエーターや、細かな穴が無数に開いた金属メッシュなどを解析する場合、その形状を馬鹿正直にモデリングするのではなく、「ここには、流速に応じて圧力が低下する『抵抗の塊(多孔質メディア)』がある」という仮想的なブロックとして設定します。これにより、数千万メッシュ必要だった計算が、わずか数千メッシュで実用的な精度を保ったまま完了します。
「どこまで形状を省いて良いのか」「どの物理現象は無視できるのか」という判断基準に、絶対的な正解はありません。流体力学の理論的背景(境界層の厚さの概算など)を理解し、過去の解析結果と実際の実験結果を泥臭く比較し続けることでしか、この「解析センス」は磨かれません。優れた解析者とは、ただソフトの操作が早い人ではなく、「大胆かつ適切な省略(モデル化)」ができる人のことを指すのです。

コメント